皆さんはボツリヌス製剤による治療(よく知られている製剤名でいえばボトックス治療)はどのようなものとお考えでしょうか。多くの方々は美容でシワ取りなどに用いられる注射とお考えのことと思います。
もちろん、ボツリヌス製剤は美容外科などで美容のシワ取りなどを目的として使用しているのは間違っているわけではありませんが、本来ボツリヌス製剤には過度に緊張したり、こわばったりした筋肉をほぐす効果・効能があることから脳梗塞などの、脳障害などが原因で起きた手足のつっぱりをほぐすためのリハビリテーションや、眼瞼、顔面の痙攣治療など神経や筋肉の過緊張をほぐして生活の不自由さを解消するために使用している薬剤であるのです。そのため、美容外科などではボツリヌス製剤を注射することで筋肉の緊張をゆるめる効果を利用し、シワ取りや小顔、口角の挙上などの治療を行っているのです。
ではそのボツリヌス製剤は歯科治療にどのように応用できるのでしょうか。それは、過剰に増えすぎてしまった咬合力(咬む力)を適正化することができるのです。
近年、社会的ストレスが増えたり、スマホやパソコンの長時間使用などのさまざまな原因で、歯ぎしり、食いしばり、顎関節症を訴え歯科医院に来院する患者様が増えています。これらの症状を起こすと、咬合力が強くなりすぎてしまうことが多く、それにより、歯が欠けたり、歯が折れて抜歯になってしまったりするケースが増えているのです。
これまで我々歯科医師はしっかり咬むために咬合力を上げる治療は得意としていましたが、咬合力を下げる治療はなかなか見当たらず、咬合力が強く歯に損傷を起こす可能性がある患者様には、マウスピースなどを入れて歯を保護する対処的治療を行うしかなかったのが現状です。
しかし、そのような中でボツリヌス製剤が歯科で応用できるようになったことで、ボツリヌス製剤を顎の周りの筋肉(特に咬筋)に注入することで筋肉の緊張をゆるめ咬合力を制御することが可能となったのです。咬合力の制御・適正化ができると歯ぎしり、食いしばり、あるいは顎関節症の改善も期待され、歯の破折を防ぐことにもつながるのです。さらには、結果として口の周りの萎縮した筋肉やエラのように発達した筋肉がほぐれることで、口元のシワが減ったり、口角が上がったり、さらには、エラがなくなることで小顔の効果を感じることができるのです。ただし、歯科では美容を目的としてのボツリヌス治療を行うことはできず、基本的には先にも述べたように咬合力の適正化のためにボツリヌス製剤を使用しています。
歯ぎしり、食いしばり、顎関節症などが原因でお口の周りに違和感がある患者様、あるいは歯が大きく削れたり欠けたり、あるいは歯が折れてしまったりしてお困りを感じている患者様は、ボツリヌス製剤の注射による治療も選択肢の一つと考えていただきぜひ一度ご相談いただければと思います。
アクセス
【所在地】
〒274-0825 船橋市前原西2-13-1
藤和津田沼コ-ポ103
JR線「津田沼」駅から徒歩3分/夜19時まで診療
歯科ボツリヌス治療
歯科ボツリヌス治療について(ボツリヌス製剤を用いた咬合力の適正化)

ボツリヌス製剤の歯科領域での効果・効能と正しい咬合力について
ボツリヌス製剤は筋肉の収縮や緊張に関与する神経伝達物質であるアセチルコリンの放出をブロックします。これにより、過剰に発達してしまった筋力の低下がおこり咬合力の適正化を図ることができるのです。
では、正しい咬合力とはどのぐらいなのでしょうか。人が強く咬んだ時の力は70kgぐらい(自分の体重程度)であると言われていますが、個人差があり、100kgを超えるケースも多々あります。また睡眠中に歯ぎしりや食いしばりをしているときは250kg以上もの力がかかっているとも言われています。また、食べ物を食べるときに必要な力は硬いものを食べるときでも40kg程度とされていることから、過度な咬合力は歯や顎骨に大きな負担をかけてしまう可能性があり、咬合力のコントロール、は必要と考えられます。
当院では、ボツリヌス治療を行うにあたっては、まずは、口腔機能モニターOramoと呼ばれる咬合力測定器で咬合力の測定を行います。目安としては、60~80kg以上の場合、論文的にはボツリヌス製剤の適応となるケースが多いです。
さらには、レントゲンや歯の咬耗具合、その他患者様が訴える症状などを総合してボツリヌス治療の必要性を判断し、ボツリヌス製剤の注入を行います。
尚、ボツリヌス注射による咬合力の効果の期間としましては、3~6か月で弱体化してくるため、症状の改善の程度により継続的に行うか患者様と相談し、そして判断致します。
歯科領域でボツリヌス治療が応用できるケースについて
歯科領域では具体的に以下のようなケースでボツリヌス製剤による治療が可能と考えられます。
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- 1
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歯ぎしり、食いしばり
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- 2
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顎関節症
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- 3
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歯の破折、歯根の破折予防
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- 4
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口腔周囲の痛みや違和感
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- 5
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咬筋の肥大、ガミースマイル
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- 6
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補綴物(セラミックなどで治療した歯)の保護
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- 7
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義歯の破折防止
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- 8
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歯科矯正治療後のあと戻りの防止 など
それぞれの詳細につきましてお知りになりたい方は、当院にご連絡下さい。
当院で使用するボツリヌス製剤について

当院で使用するボツリヌス製剤は、適正な手続きを経て輸入された液体化製剤を使用しています。
こちらの製品は、従来の粉末で販売され施術時に生理食塩水で薄める製品と異なり、すでに粉末を生理食塩水で希釈された状態で販売されている液体製剤です。そのため、液体製剤の濃度は安定し、さらには希釈時の細菌などによる汚染のリスクもありません。また、ヒト由来成分や動物由来の原料を使用していないため、安全性が高くまた副作用も少ないものとなっております。
歯ぎしり・食いしばり・顎関節症の治療時の咬筋注入の具体的術式

① 写真のように咬筋に注入するための安全域を確認します。
② 安全域が確認出来たら、片側(右側)の安全域に2か所あるいは3か所ボツリヌス製剤を注入します。2か所打ちの場合は合計16単位の量を、3か所打ちの場合は22単位の量を注入します。
③ 反対側(左側)にも同様の量を注入致します。
*3か所打ちの場合は注入後咬みにくさを感じてしまうこともあるため、基本的には2か所注入となります。 経過観察ののち、必要に応じて追加します。
施術時間は、10分~15分程度です。注射部位は揉んだりこすったりはしないでください。
尚、注射後効果は1週間ぐらいしてから現れ4~6か月程度効果が持続します。症状の改善の程度により、継続治療あるいは終了となります。 もちろん終了後もご希望のある場合はご相談に応じます。
ボツリヌス製剤注射による注意点
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- 1
- 注射部位にまれに内出血を起こす可能性があります。化粧で隠せる程度がほとんどで、必要に応じてトラネキサム酸の投薬をおこない数日で消退します。
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- 2
- まれに注射部位に浮腫(腫れ)のようなアレルギー反応を起こす場合がありますが、こちらも抗アレルギー剤などで対応いたします。
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- 3
- 当院で用いるこちらの製品は日本では未承認ですが海外では承認されており、海外のメーカーより輸入して使用しています。ちなみに、現在歯科で使用できる日本で承認されたボツリヌス製剤はありません。
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- 4
- 妊婦の方、妊娠の可能性がある方、授乳中の方の注射を行うことはできません。
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- 5
- 全身性の筋肉の病気(筋無力症、筋萎縮性側索硬化症など)の患者様も施術ができません。
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- 6
- またボツリヌス製剤を注射後、2回の月経が終わるまでは避妊をお願いいたします。男性は3か月避妊してください。
費用について
歯ぎしり、食いしばり、顎関節症の治療で咬筋注入 | 33,000円~(税込み) |
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その他、症状に応じた口腔周囲筋への注入 | 22,000円~(税込み) |
*詳細は当院にお問い合わせください